ラバーダム防湿とは
日本では普及していないという現状
歯科治療において必須のテクニックとも言えるラバーダム防湿ですが、日本ではそれほど普及していません。米国の根管治療の専門医院では、治療の90%でラバーダム防湿を行っています。一方で日本では、歯科治療におけるラバーダム防湿の施術率は低く、根幹治療の専門医でさえ25%の装着率となっています。一般の歯科医院では5%の装着率という報告もあります。日本でラバーダム防湿が普及していない原因として考えられるのは、治療費の問題があげられます。保険診療でもラバーダム防湿を用いることはできますが、それを行ったために発生する材料費や時間、技術などのコストは現在の保険点数には含まれないため、自費となるかそもそも費用をいただかないといったことになります。歯科医院にとっても、患者さまにとっても少しでも歯科治療のコストを抑えたいという思いから、少数の歯科医院でしか実施されていない現実があるのです。
ラバーダム防湿が行われる治療について
繊細な技術を必要とする歯科治療において、ラバーダム防湿は施術する歯科医にとっては大きな味方といえます。治療しやすいとはいえない口腔内に小さな手術室を作るといったイメージです。具体的には、ラバーダム防湿専用のゴムシートに小さな穴を開け、その穴に治療する歯だけを通します。患歯と口腔内を隔離することで、清潔な環境の中で歯科治療を行うことが可能となります。主に根管治療でラバーダム防湿を用いることが多くありますが、そのほかの治療時にも有効です。以下に、ラバーダム防湿を用いる治療の種類をあげて説明いたします。
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①根管治療(歯の神経の治療)
ラバーダム防湿を多く用いるのが根幹治療です。細菌による感染が最も多い歯科治療が根管治療であり、歯科医が一番神経を使う治療です。細菌の侵入を劇的に阻止するラバーダム防湿は歯科医にとって重要なアイテムであり、根管治療の成功率を格段に上げることが可能です。
※治療は成功したように見えても、わずかでも細菌が侵入していた場合、再発するケースがあります。 -
②歯の詰め物の治療
ラバーダム防湿は、歯の詰め物をするときにも使われます。その際、患歯を清潔に保たなければいけないのですが、唾液が入ってくるケースが多く、唾液の浸入を許すと詰め物が上手く装着できなくなったり外れやすくなる場合があります。また、唾液から細菌が歯の中に侵入すると、むし歯の再発にもつながってしまいます。しかし、ラバーダム防湿をすることで唾液や細菌の侵入を防ぐことができるため、確実な詰め物治療が可能となります。
ラバーダム防湿を使用するメリット
1.唾液による感染を防ぐ
口腔内にモノが入ると唾液が分泌されます。これは、条件反射に似たものでそれによって食べやすくする効果があるのです。同様に、歯科治療の際にも唾液が発生してしまいます。唾液の中には多くの細菌が存在しているため、根管治療において最大の障壁となり、根管内に細菌が侵入すると、さらに患歯を悪化させてしまう場合もあります。そうならないために、唾液の浸入を防ぐ一つの方法として、ラバーダム防湿があります。唾液に含まれる細菌による感染を防ぐことで、根幹治療の成功率も上がるため、結果として再発リスクを大幅に下げることが可能です。
2.器具などの誤飲を防ぐことができる
歯科治療では小さな器具を用いることが多く、誤飲の原因にもなりかねません。
ラバーダム防湿を用いると、器具の誤飲を防ぐことができます。
3.舌や頬を傷つけることなく治療に集中できる
ラバーダム防湿を用いることで、患歯とそれ以外を隔絶することができます。
歯科治療において、無造作に動く舌や頬肉は治療を妨げることも少なくありません。繊細な歯科治療に集中するためにも、ラバーダム防湿は大きな力を発揮してくれます。
4.乾燥した状態で治療ができる
詰め物を装着する際は、患歯が乾燥した状態がベストです。そのため、ラバーダム防湿で唾液の浸入を防ぐことは最大のメリットとなります。
また、液体だけではなく、吐く息なども患歯を湿らせてしまいます。そのような場合も、ラバーダム防湿が防いでくれるので精度の高い歯科治療が可能です。
5.殺菌力の強い消毒薬が使える
患歯と他の部位(口腔内)を隔絶することで、薬剤が漏れ出す心配がなくなるため、より強い薬剤を使用することが可能となります。
治療時間の短縮や治療の効果を高めるなど、様々なメリットがあります。